【本編】プロローグ第一幕第二幕第三幕第四幕第五幕第六幕第七幕第八幕

【投稿作品】それぞれのラストシーン

たかしんに氏たこ氏あさぎり氏第9幕&あさぎり氏第10幕猫野丸太丸氏 ・うさ氏英明氏フレッシュイア氏

 

じょーかー

第八幕

 
「やってみたいと思うことは山ほどあるぞ。何しろガキの頃からずっと夢見ていたことが現実のものになったんだからな」

オヤジは床で正座するアタシを見下ろすようにローテーブルに腰を降ろすと、相も変わらずスカートの中を気にせずに、むしろ敢えてそうしてるんじゃないかと思うくらいに股を大きく開いて座った。
アタシの高校の制服を着た彼は、これ以上無いくらいに満足気な表情だ。

「メンソールか。よくこんな甘っとろい煙草が吸えるなぁ。俺はタバコを吸う女は嫌いだが…まあいい。美由紀ちゃんのカラダがヤニを欲しがってるから吸ってあげよう」

オヤジはアタシのバックから取り出したマルメンライトを、テーブルの上でトントントンと叩いて口に咥えると「火」と一言だけ言った。
同時にアタシは近くにあったライターに手を伸ばして、オヤジのタバコに火をつける。

「普通は親っていうのは、自分の子供だけは可愛いと思うもんだ。会社の上司やなんかのガキぃ見てると、ああこの娘はオヤジに似ちまって不幸だなぁと思うけれど、当の父親にとってみれば世界一の美少女にでも見えるみたいでな。美由紀ちゃんの両親なんてのは、そりゃあ鼻が高かったろうよ。へへ。こんな可愛い娘がいたら、さぞかし自慢だったろうな。でもよ、俺はな、誰からも可愛いなんて言われたことがない。今はともかくガキん時からだ。俺の両親は、こぞって年端も行かないガキのことを『醜い』だの『一族の恥』だのと言いがった。ずっとだ。小さい時からずーーーーーーーっとだ。やがて世間の視線が俺を刺すようになった。親は俺を捨て、中学出てすぐに俺は働くしかなかった。その醜い容姿故にバブル全盛だってのに就職も難しかった。ふふ。可愛い声だなぁ俺」

オヤジは両手で自分の頬に触れると、まるで宝物に触るようにアタシの顔を撫でては、うっとりとした表情を浮かべている。
アタシの頭の中に鏡に映った今のアタシの姿、目の前にいるオヤジの本来の姿がフッと浮かんだ。
何だか、この時はじめてアタシの中で悪魔としか思えなかったオヤジが人間だったことを知らされた気分だった。
ベタベタとアタシの顔にカラダに手を這わしているのが、このオヤジかと思うと全身に悪寒が走るけれど、そんなオヤジの行動が納得いくってことは決してないまでも、何だかオヤジという1人の人間を垣間見てしまった瞬間だった。

「何とか言ってみろよ。この哀れな醜い男になっちまった感想でもよ」

マルメンの煙が、アタシの脂ぎった顔に吹きつけられる。

「アタシも…アタシも親に可愛がられたことないから」

アタシは知らず知らず、低く篭った声でそう呟いていた。

「な、何を言いやがる!お前なんぞ似俺の気持ちが分かってたまるか!!」

「わかんないけど。わかんないけどアタシも親に大切にされことなんて無かったから」

「だから何だって言うんだ!お前が不幸だとでも言うのか?!冗談じゃないっ!!歩いてるだけで誰もが振りかえり、ただそこに存在するだけでチヤホヤされていたお前に俺の何がわかるっ!!!このムチムチで完璧な肉体を持っていたお前に、お前に俺の何がわかるってんだ!!」

オヤジは正座しているアタシの髪を掴むと、頭を前後に激しく揺さぶりながら興奮した口調で怒鳴り散らした。

「痛っ!痛いっ!!やめてよー!!」

「不幸にもレベルってヤツがあるんだよぉ!お前が言ってる不幸なんざ不幸のうちに入りゃあしねえ!!俺は生きてる限り不幸だ。存在自体が不幸だ。しあわせが逃げていくように出来てんだよお前の今のカラダはよぉ!」

オヤジはそこまで言うと、アタシを床に突き倒す。
見上げたオヤジの顔には、再び悪魔の微笑が浮かんでいた。

「いいさ。分からせてやる。思い知らせてやるよ。ふふ。オート何とか機能って言ったっけかなぁ?へへへ。お前には明日から俺の代わりに会社に行ってもらうぜ。この機能はなぁ、俺が直接命令しなくても、あらゆる物事に対して俺が普段だったらこうしていたはずだというリアクションをとるようになるらしい。お前がこの部屋にいると何かと邪魔だからな。ふふふふふ。お前は俺のカラダで会社に行って来い。そして俺の日常を経験してくるがいい。へへへ。今日からお前はヘボサラリーマンとして働き、俺はお前の稼いだ金で一生遊んで暮らすさ。ふふふ。あははははははははは」

アタシはもうオヤジに何を言うことも出来なかった。
明日からどんな毎日が待っているのだろう。
それがどんなものであるにしろ、アタシの絶望は、まだまだ続きそうだ。

 

inserted by FC2 system