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【投稿作品】それぞれのラストシーン

たかしんに氏たこ氏あさぎり氏第9幕&あさぎり氏第10幕猫野丸太丸氏 ・うさ氏英明氏フレッシュイア氏

    

                                                        じょーかー


第一幕


その暗闇は、時間にしたら一瞬のことだったと思う。
アタシのカラダが“ふわっ”と浮遊感に見舞われた。
そして何も見えない、何も聞こえない、何も感じられない世界が訪れた。
それはちょうど“生の中における死”である眠りのようなものだった。
だからアタシは、朝目覚める時のように、何事も無かったかのように、前日までの嫌なことをすべて忘れて大きく伸びをするような気持ちで眠りから覚めようとした。
でも・・・・・それは適わぬ願いだった。


ずんっ!


暗闇の世界から一気に突き落とされたような衝撃が全身を走った。
でも、その衝撃は消えることなくアタシの全身を包んでいる。


・・・カラダが重い

「んっ・・・」

アタシは明らかになっていく意識の中で、ゆっくりと目を開いた。

「うっ・・・う〜ん」

アタシと同時に誰かが目覚める。アタシの隣で。


最初に目に入ったのは紺のスラックスに包まれたハムのような太もも。


くたびれた革靴。

床。

 

アタシは床から自分のカラダに視線を戻していく。

白いシャツ。

突き出た腹。

ネクタイ。

 

アタシのカラダ・・・・・おやじ臭い。。。。。

 

 

「お!おおおおおおおっ!!」

 

狂ったような歓喜の声にアタシは首を横に向けた。
瞬間、顎とシャツが擦れてジョリっという汚い音がした。

 

「きゃっ・・・・・・・・・・きゃあああああああああああああああああっ!!」

 

アタシは隣の椅子に座っていた人物を見て刹那の悲鳴を挙げ、その自分があげた悲鳴を聞いて更に絶叫した。

はっきりしない意識のなかでも、アタシには全てが理解出来ていたから・・・・・

自分が出した汚い声がひどく重いカラダの理由が

私を取り巻く満員電車の中でよく嗅いだことのある独特の悪臭が

そして・・・ズボンを突き破りそうな股間の膨らみと、その中でビクビクと蠢くものが何なのかを。

 

アタシの隣にいたのは、間違い無く前田美由紀・・・・・アタシだった。

「はっ!はっ!ああっ!ひ!ひっ、ひひひひひひひひひひ」

そのアタシは、無機質で不気味な機械仕掛けの椅子にドカッと深く腰掛け、白いミニスカートが引き千切れそうなほど股を大きく開いて座っていた。
そして目を大きく見開いて自分自身のカラダを見下ろしながら、パールピンクのルージュが塗られた唇をパクパクさせて声にならない声を上げていた。

「は、は、はああああっ!おれ、おれ、おっ、あはっ!あはははははははははっ!!」

 

カシュンッ!


耳につく嫌な金属音とともに、アタシと・・・隣に座るもう一人のアタシの手足を拘束していた金具が音を立てて外れた。
彼女は、その音に一瞬沈黙したけれど、すぐに自由になった自分の腕をゆっくりと持ち上げると口元だけでニヤッと笑った。
アタシもまた、そんなことをしたくもないのに、そうしない訳にはいかなかった。
変わり果てた自分の腕を、縮れた体毛に覆われた太い土色の自分の腕を見つめるという行為。

「・・・・・・・いやっ!そんなの嫌あっ!!」

アタシは低く篭った声で叫ぶと、止めど無く溢れる涙を抑えようと両手で顔を覆った。
でも、その腫れぼったい手の平に伝わった感覚に、アタシは全身が凍り付いていくのを感じた。
アタシの両手にはベトベトして膨れ上がった大きな顔の輪郭と、ジョリジョリとしてチクチクした堪えがたい感触が広がったからだ。
アタシはまた、そんなことしたくないのに、その嫌な感触を何度もベタベタと触って確かめた。
現実としか思えない超現実の感覚・・・

「はあ・・・・はあ・・・・・はあああああ!き、気が狂いそうだっ!!声が!カラダが!!俺の声が!!」

ゆっくりと、たどたどしく椅子から立ち上がるもう一人のアタシ。
彼女は慣れない圧底によろめきながら、そのつま先から目線をゆっくりと自分のカラダに這わせていった。

「ふふ・・・・ふふふふふふっ・・・・・んふふふふふはっ!!やったぞ!ついに・・・ついに俺は・・・・俺の念願が叶った!!!もーそーが!もーそーが現実のものになったんだあっ!!」

もう一人のアタシは困惑するアタシをよそに口を左右にニッと開いて、両手を穴があくほど見詰めていた。
そして首だけでアタシの方を向いたかと思うと、だらしない笑顔を更に歪めてニヤッと笑った。

「どんな気分だい?美由紀ちゃん・・・・だっけか?」

満面の笑みを浮かべながら、ゆっくりとアタシに近づくアタシ。
それは間違い無くアタシだけれどアタシには見えなかった。

「何なの・・・・・何なのよコレっ!!」

アタシはタンが絡む不快な喉から精一杯の声を振り絞った。
自分の全身から湧き上がるオヤジ独特の臭いに加えて、鼻を覆いたくなるような口臭が感じられた。
それは間違い無くアタシ・・・前田美由紀が発する体臭であり、口臭だった。

「・・・・見た通りさ・・・・ふふふふふ」

アタシの横で仁王立ちし、アタシを見下ろすもう一人のアタシ・・・
アタシは、乾燥してパサパサになった口の中でゴクリとツバを飲みこみ、喉元で上下に動く嫌な感覚に苛まれながら、もう一度自分のカラダに視線を降ろした。
首を下に向けると、またジョリッと嫌な音がした。
いつのまにかジットリと全身に汗をかいていたアタシの頬を、雫となったそれが吹き出した滝のようにダラダラと流れ落ちてくるのが分かる。

アタシは・・・・くたびれたエンジ色のネクタイを締めて、白い・・・いや、少し黄ばんだYシャツを着ていた。薄手のYシャツの下にはランニングを着ているようだ。そんな衣類に包まれたアタシのカラダはブクブクに膨れ上がっていて、特にオナカはベルトの上に乗っかるようにして突き出ていた。
半そでのYシャツから覗く黒く太い腕には、ビッシリと毛が生えている。
サイズの合わないスラックスは、汗ばんだ太ももにピタッと張り付いてしまっていて締めつけるような圧迫感があった。

汗が・・・冷たくなった汗が再び流れ落ちる。

そこにアタシのカラダは無かった。

アタシのカラダは・・・前田美由紀のカラダはアタシの横にいる。

それじゃあアタシは一体

「・・・何と醜い姿なんだ。可愛そうに」

大人っぽくてセクシーだと言われたアタシの声で、もう一人のアタシが言った。

「あなた・・・・・アナタは、ひょっとして」
「ああ・・・・御名答だ。肉体交換に成功したようだな・・・くくくくく」
「肉体・・・・こーかん・・・・・・」


その独特の響きに、アタシは気が遠くなるのを感じた。

交換・・・アタシとオナニーオヤジのカラダが交換されてる!!

アタシが・・・アタシのカラダが!!!!

「早くっ!!早く元に戻してよっ!!」

アタシは立ち上がると、もう一人のアタシに向かって叫んだ。
喉が気持ち悪い。
タンが絡んで声がかすれる。
立ち上がったアタシの足は、恐怖のあまりガクガクと震えていた。


お腹が・・・・・カラダが重い。


「んふふふふふっ。カーテン越しとはいえ聞いてだたろう?さっきの会話を。1度交換が成立した後は2度と元には戻れないんだ。そーゆーシステムになっているのだよ。んはっ、んふふふふふふふふ〜♪」

「そ・・・そんな・・・・・そんなこと!やってみなくちゃ分からないわ!!」
アタシはニタニタといやらしく笑う自分自身のカラダに掴みかかると、もう1度イスに座らせようと強引に引っ張った。

「お、おい。何をする気だ?!」

もう一人のアタシは必死になってアタシを押し返そうとしたけれど、それ以上に強い力でアタシは彼女を・・・いや、オヤジを抑えつけていた。

何だろう。。。

不思議な気分だった。

全身から力が湧き上がってくるという今までに感じたことの無い感覚。
それだけじゃない。
アタシは、その暴力的な気持ちに酔いしれているかのようだった。
太くて汚らしい腕で掴んだアタシ自身の細い腕を、折れそうなほど華奢なカラダを触っていると何か変な気分になっていく。
アタシは、そんな感覚に支配されながらオヤジをイスに放り投げるようにして座らせた。

「もう1度、この変な機械を動かして元に戻るのよ!」

アタシは、そう言いながら機械のスイッチをONにしようと彼の座るイスの背後に手を回した。

「やめろっ!せっかく手に入れたギャルのボディを取り戻されてたまるかっ!!」
オヤジの可愛らしい罵声と同時にアタシのカラダはピタッと動きを止めた。
まるで全身が鉛にでもなってしまったかのように固まってしまった。

「・・・・・何?!ど・・・どうして?」

ポカンとした表情でアタシを見上げるアタシがいる。
アタシは動けないまま、そんなアタシを見詰めることしか出来なかった。
ふいに、アタシの顔がニヤ〜ッと崩れる。
薄い水色のシャドーを入れた眼元を細めて、アタシはアタシを見上げて笑った。

「ひっひっひ。そーかそーか。なるほどなるほど。そ〜か・・・・そーゆーことか」

もう一人のアタシは一人で納得すると、お腹に手を当てて大声で笑った。

「くっくっくっくっく。あははははははははっ!これはイイぞ!これはスゴイっ!!そーか。そーゆーことだったんだな。ははははは。おい!お前っ!!そこを退けっ!!」

それまで、だらしなく細めていた目を急にキッとさせて、もう一人のアタシはアタシにそう言った。
アタシは自分の意思とは関係無しに、その重いカラダを引きずるように動いた。
どうしてカラダが勝手に?!
驚くアタシと正反対に、オヤジはアタシの顔で再びニヤリと微笑むと口を開いた。

「鼻をほじれ」

「えっ?!」

一瞬アタシは何が起きているのか理解できなかった。
オヤジの言ったひとことの意味も分からなかった。
でも、アタシの腕がアタシの意思に反して動き出す。
人差し指を立てて、ゆっくりと、太くて毛の生えた醜い指先がアタシの顔目掛けて近づいてくる。

「やだっ!何なの?!何でカラダが勝手に・・・」

アタシの指がアタシの鼻の穴に突っ込まれる。
指先にヌルヌルとした嫌な感覚が広がった。
それでもアタシの指先は一心不乱にアタシの鼻の中を掻き回す。

「いやっ!何?!何なのこれ?!!」

もう一人のアタシは相変わらず腹を抱えて、そんなアタシの様子を見ながら下品に笑っている。

「えへへへへへへ。こいつはいい。これはスゴイぞ〜!これが“システムR”というやつか〜」

アタシは、ひとしきり鼻をほじると、その指を抜いた。
自分ではそんなことしたくないのに、アタシは、その指先についた汚いものを見詰めた。

「よし!食えっ!」

あろうことか、アタシの声にアタシは即座に反応し、その汚い指先をパクッと咥えてしまった。

「んんっ!!んんんんんーっ!!」

アタシは指を咥えたまま必死に叫んだが、しばらくするとアタシは舌先で自分の指先をペロペロと舐め回し、ゴクッと喉を鳴らしてそれを呑み込んでいた。

「いひひひひひひひっ!食いやがった!鼻クソ食いやがったぞ!!これはスゴイっ!!」

パンツが見えそうなほど股を大きく広げたもう一人のアタシがガッツポーズをして奇声を挙げる。

「一体何をしたの!!アタシの!アタシのカラダに何をしたのっ!!!」

「うるさいっ!!気味悪い声で怒鳴るなっ!!」

オヤジが叫ぶとアタシは口をつぐんでしまった。
それどころか、いくら声を発しようとしてもアタシは口を開くことが出来なかった。

「・・・・・・息を止めろ」

その声と同時にアタシは呼吸することをやめた。
口をギュッと閉じ、その場で直立不動のまま何をすることも出来ずに立ち尽くしたままだ。

「はっはっはっは!そうだ。大人しくしてりゃあいいんだよ小娘が!この私の全財産を以って挑んだ肉体交換はなあ、交換後の自分のカラダの処理方法をオプションとして選択出来るんだ。ふつーは処分してしまうらしいが、私は面白かったので“システムR”とかいうやつを選んだ。ふふふっ。システムRの“R”とは、リモートの“R”なのさ!!・・・・・おっといけない。息をしてもいいぞ」

「はっ!・・・・・はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

アタシはオヤジの言葉を聞き終えると、空っぽだった肺のなかに一気に空気を送り込んで肩で息をした。
中年独特の口臭があたりに広がり、アタシは鼻を覆いたかったが自分の意思で手を動かすことも出来なかった。

「つまりだ・・・私はお前から奪ったこのカラダを完全に支配し、自分の意のままに動かすことが出来るのと同時に、今のお前の、つまり私自身のカラダも自由に動かすことが出来るようになったということだ!!」

『そんなバカなこと・・・』
アタシはその言葉を口に出すことが出来なかった。
オヤジの言う通り、アタシのカラダは自分自身では一切動かすことが出来ずにいた。

「さて・・・・・それじゃあ、お前の部屋に案内してもらうとするかな?」

オヤジが含みのある笑いを浮かべると、アタシのカラダは勝手に動き始めたのだった。
そして
絶望と狂乱の日々が幕を上げる・・・ 

 

 

 

 

第二幕

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